熊本市の政令指定都市移行を記念し、2012(平成24)年から開催されている「熊本城マラソン」。熊本地震以降は、復興を祈念する大会として全国からの支援に感謝を伝えるとともに、大きな被害を受けた熊本城址の現状と再建への歩みを全国に発信しています。
残念ながらコロナ禍の2年間は開催中止となりましたが、2023(令和5)年2月19日(日)、3年ぶり10回目となる大会が開催されます。この日を待ちわびた1万3000人のランナーが全国から集結。早春の肥後路を駆け抜けます。
開催を目前に控えた今回は、熊本城マラソンに参加するランナーの思いをお届けします。
市街地から農村地域、城下町の風情も楽しめる42.195キロ
政令都市へ移行した2012(平成24)年、全国的なシティーマラソンの高まりを受けて熊本市で第1回熊本城マラソンがスタートしました。当初の大会には9000人が参加。10回目の開催となる今年は、1万3000人のランナーが全国からエントリーしています。「コロナ禍ということもあり、フィジカルディスタンスを保ちながら安心・安全な大会を目指します」と、同大会実行委員会事務局長で熊本市イベント推進課の金光良昌課長。2月19日の開催に向け、着々と準備を進めています。
本大会では、42.195キロを走る「歴史めぐりフルマラソン」、約3.5キロを走る「城下町ファンラン」の他、「金栗記念熊日30キロロードレース」も行われます。
ゲストランナーを交え、1万1000人の一般ランナーが参加する「歴史めぐりフルマラソン」は、熊本市役所のある市中心部をスタートし、市の南西部を経て熊本城までの42.195キロの完走を目指します。ビルの立ち並ぶ中心街から、江戸時代には物資の集積地として栄えた古き良き町並みの残る川尻、田畑の広がる飽田町から、海風に向かって突き進む熊本港線を折り返し、城下町として栄えた新町を抜けフィニッシュの熊本城までを一気に駆け抜けます。
「体育祭なんだけれど、文化祭のような大会」
数ある市民マラソンの中でも、「熊本城マラソンは、体育祭なんだけれど文化祭のような大会」と語る佐藤雄一郎さん。持ち得る力を振り絞ってゴールを目指すスポーツではあるけれど、「郷土色豊かで、熊本の風土や文化に触れられる。何と言っても42.195キロの絶え間ない声援が回を重ねるごとにレベルアップしているのには驚かされます」と笑顔を見せます。
佐藤さんはマラソンの父・金栗四三さんが育った玉名郡和水町の出身。中学生の頃から長距離選手として活躍し、高校では駅伝部に所属。スカウトを受け箱根駅伝を目指して帝京大学に進んだという経歴を持つ市民ランナーです。
大学1年の時に開催された「第1回東京マラソン」に、ボランティアとして参加。「その迫力と偉大さにとにかく圧倒されたのを覚えています。熊本でもこのように、一般市民が楽しみながら参加できるマラソン大会があればいいのにと強く思いました」
佐藤さんは東京、大阪、京都での仕事を経て、8年前に帰熊。帰省してくるたびに、街の灯や恒例行事なども含め、何かがなくなっている熊本に元気を呼び戻したいと、地元熊本でマラソンを通して地域を豊かにする事業を立ち上げています。
それぞれの「熊本城マラソン」を走ることに意義がある
佐藤さんは「熊本城マラソンは第1回大会に参加して以来、今回が4回目のエントリー。当初は3時間3分という好タイムでゴールしていましたが、今年の目標は4時間くらい」と話します。そこには、タイムではなく、熊本城マラソンを丸ごと楽しみたいという思いが込められています。
「尊敬する75歳のランナーの方が、タイムではなく制限時間をフルに使って大会そのものをめいいっぱい楽しむことを目標としておられる話を聞いて、市民マラソンの捉え方が変わりました」と佐藤さん。ベストタイムを目標に走るもよし、沿道の市民との触れ合いを楽しみながら走るもよし。「それぞれの『熊本城マラソン』を走ることに意義があるのだと思います」
これまでの大会は1人での参加でしたが、今年は夫婦でエントリーしているという佐藤さん。5歳と1歳になるお子さんの沿道からの声援が大きな力になりそうです。
北海道から初参加。夫婦合計のベストタイムを目指します!
本大会には、熊本はもちろん全国から多くのランナーが詰めかけます。北海道から夫婦で参加する西尾友美さん、政幸さんは、熊本城マラソンには初参加。「北海道での市民マラソンにはエントリーしていましたが、コロナ禍でここ数年は大会中止が続いています。久々のフルマラソンで、大好きなくまモンのいる熊本に行くことがかないうれしいです。夫婦合計でベストタイム8時間を目指します」と意気込みを語ってくれました。
熊本地震後に初参加。その時感じた“力強いまち”の今を、自分の目で確かめたい!
全国の市民マラソン制覇を目標に10年ほど前から延べ50の大会に参加しているという大阪府の土屋裕司さん。熊本城マラソンは、熊本地震から1年を待たずして開催された2017(平成29)年大会に続いて2回目の参加。これまでに参加したフルマラソンの中で印象に残っているマラソンを聞かれたら、真っ先に「熊本城マラソン」と答えるという土屋さん。「飛行機の中から目にした熊本は、ブルーシートで埋め尽くされていました。そのような境遇にありながらも、走るランナーに“ありがとう”と声援を送ってくださる姿に感動して、涙が止まりませんでした」と当時を振り返ります。
「自分たちが元気を届けるために参加した大会で、逆に熊本の皆さんから勇気づけられた思い出がよみがえります。あの時感じた“力強いまち”が、どのように復興に向かっているか、もう一度自分の目で確かめながら走ってみたい」と開催を待ちわびています。
走ることが大好きだった父の思いを胸にゴールを目指す
2021(令和3)年2月に65歳の実父をがんで亡くした手島啓一郎さんは、千葉県から参加。「亡くなった父はスポーツが好きで、中でも走ることに夢中になっていました。定年後に福岡から移り住んだ熊本でも、毎日江津湖の周りを走っていたそうです」と語ります。第2回大会に参加したというお父さんは、闘病中も手島さんに大好きな熊本城の写真を病室から送ってくれていたそうです。
「残された母を勇気付け、次への一歩を踏み出せるよう、父と共に熊本城まで走り抜けたい」。熱い思いを胸にゴールを目指します。
熊本城マラソンにエントリーしているランナー、それぞれの思いを紹介した今回。いろいろな思いを胸に走り抜ける42.195キロには、どのような景色が待っているのでしょうかー。復興への歩みを続ける熊本の今を、目と心に焼き付けながら、何より熊本城マラソンを楽しみながらゴールを目指してくださいね!
次回は、ランナーの心強い応援隊、沿道で声援を送るボランティアの皆さんを紹介します。
ご期待ください!
コースなど詳しくは、熊本城マラソンの公式HPでチェックを!
https://kumamotojyo-marathon.jp/
(構成・取材・文・撮影/大平誉子) ※写真の一部は借用しています
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