熊本市の政令指定都市移行を記念し、2012(平成24)年から開催されている「熊本城マラソン」。2023(令和5)年2月19日、3年ぶり10回目となる大会が開催されました。大会当日は県内を含む九州北部地方で春一番が吹き、朝からは時より小雨が。この天気を物ともせず、「金栗記念熊日30キロロードレース」「歴史めぐりフルマラソン」「城下町ファンラン」の3コースで合計約1万2000人のランナーが早春の肥後路を駆け抜けました。
今回の大会でどのようなものがたりが生まれたのか―。「歴史めぐりフルマラソン」を密着取材し、ランナーの雄姿や沿道の熱い声援、そして歓喜あふれるフィニッシュエリアの様子を写真とともにご紹介します。
ウエーブスタートなど、新たな感染症対策も導入
今回はスタート直前の待機場所でフィジカルディスタンスを保つため、ランナー同士の間隔を広げ20のグループごとに順次スタートする「ウエーブスタート」を取り入れるなど、感染症対策にも新たな取り組みが取り入れられた熊本城マラソン。「金栗記念熊日30キロロードレース」「歴史めぐりフルマラソン」「城下町ファンラン」の各コースに分かれて、順にスタートの合図を待ちます。
朝9時2分の号砲とともに一斉に駆け出したのは、「歴史めぐりフルマラソン」に参加した1万428人のランナー。真っすぐ前を見て突き進む人、ユニークなコスチュームで周りを笑顔にする人、数人のグループで和気あいあいと走り出す人…。それぞれの熊本城マラソンがスタートしました。
熊本市中心部を抜け、15キロ地点の川尻地区に入ってくると沿道の声援が一段と大きくなります。熊本市くまもと工芸会館前では、朝9時前から準備を始める「かわしりひょっとこ愛笑会」(吉村孝則会長)の皆さんの姿が。太鼓と笛の陽気な音楽が沿道に響き、ユニークなお面を付けたひょっとこが、何とも言えない踊りを披露し応援します。
この日は大人に混じってかわいらしい小学生も応援に参加。5歳の頃から同会のメンバーとなった荒木陽愛ちゃんと妃莉ちゃんは、大会前夜は少し緊張気味だったようですが、現場に来ると早く応援をしたくてたまらない様子。「頑張って~!」と可愛らしい声援を投げかけていました。
少し先には、今年初めて応援に参加したエステサロンベルダの中村麗さんらの姿も。シンガーソングライターMICAさんも一緒に応援に参加していました。中村さんは「2022(令和4)年6月に、川尻のまち並みに溶け込むように築148年の家をリノベーションした店を構えました。私たちも地域の一員として、熊本城マラソンを盛り上げたい」と、フルーツやお菓子など、テーブルいっぱいの補助食を準備。「ランナーの皆さんとの交流も楽しみたい」と笑顔を見せていました。
川尻を抜けると、のどかな田園地帯が続く飽田・天明地区へ。20キロ地点近くでの応援隊は人だけではありません。田んぼには何と、“かかし応援団”が出迎えてくれました。住宅地から離れ、人の応援が少なるエリアでも切れ目のない応援が続くのも熊本城マラソンならではの魅力です。
海から吹き寄せる風に向かって走る難所。子どもたちの応援が力に
25キロ地点を過ぎひたすら続く直線を走り折り返す熊本港線は、有明海から海風が吹き寄せる直線道路。多くのランナーが、体力的にも心理的にも「心が折れそうになる」と口をそろえる難所といわれています。ここで、ランナーを食い入るように見つめるグループが。白坪小学校に通う松崎莉子ちゃん、芹川京ちゃんはお母さんと一緒に、担任の先生と校長先生の応援に駆けつけていました。先生の名前が書かれたスケッチブックを高く掲げる、お母さんの松崎美和さんと芹川涼子さん。「応援の声、聞こえたかな…」と莉子ちゃん。きっと、ここから先も頑張れる力となって届いていたはずです。
そしてこの場所で、ひときわ目を引く赤い甲冑を着て応援している人が。よく見てみると、胸のゼッケンに『寝坊』の文字が。実はランナーとしてエントリーしていたという北川義久さん(合志市)。「とにかく驚きました。朝起きたら8時40分だったんですよ!」。昨夜、甲冑の準備に時間がかかり、大会当日にまさかの寝坊をしてしまったため、急遽この姿での応援に切り替えたそうです。「もちろん来年はリベンジします!」と決意を語ってくれました。
また今回が初出場という息子の田中広樹さんに補助食を届けに来た父・真一さん。広樹さんの姿を見つけると安心した様子です。「実は昨日、足をけがしてしまって…。4時間30分の目標は達成したい」と広樹さん。お父さんから力をもらい再び走り出していきました。
手話を交えた歌や山鹿灯籠踊りの応援も
第1回大会から毎回ボランティアとして歌声応援を続けている「出田眼科病院コーラスグループナイチンゲールズ」。福田病院前では、出田名誉院長をはじめとするメンバーが「負けないで」「夢をあきらめないで」「栄光の架け橋」「切手のない贈り物」などの歌声を、手話を交えて届けると、ランナーからも「ありがとう!」の声が聞こえてきました。
家族や友人の待つフィニッシュゲートへ
そして熊本城二の丸公園まで、最後の坂を上り詰めるとフィニッシュゲートが見えてきました。ゲート近くには、完走したランナーを出迎えるたくさんの家族や友人の姿も。中には完走できた喜びと達成感から、涙ながらに家族と抱き合う光景も見られました。
3年前に地元熊本に戻ってきた吉川卓志さん(八代市)は、今回が初めての参加。いくつものフルマラソンを完走し、最近はトレイルランにハマっているという叔父の阪野慎一さん(熊本市中央区)が吉川さんのゴールを待ち、熊本城をバックに熊本城マラソンのマスコット「きよくま」と一緒に完走記念の写真を撮っていました。熊本地震後の熊本城マラソンに出場したという阪野さんは、「当時は大阪に住んでいて、震災直後の瓦礫に囲まれた熊本城を見て、心を痛めたのを思い出します。今回、前半はあいにくの天気でしたが沿道の応援が力になりました」と感慨深げに話していました。
途切れることのない、走るみんなに向けられる応援
3時間21分でゴールした坂田裕紀さん(玉東町)の隣では、神戸から応援に駆けつけてくれた両親が優しく見守っていました。2022(令和4)年11月に神戸マラソンを走ったばかりという坂田さん。「他県のシティマラソンでは、応援したい人がいてその人だけのための応援という感じがしますが、熊本城マラソンは走っている“皆のための応援”が途切れることなく続くのが一番の魅力ですね」と語ります。
熊本城マラソンを終えたばかりですが、2週間後の東京マラソンにもエントリーしている坂田さん。もちろん、ご両親も応援に駆け付けるのだそうです。ご両親にとってはマラソン大会が、日ごろなかなか会えない裕紀さんと会えるかけがえのない時間となっているようでした。
植木温泉の足湯やマッサージなど、癒やしスポットでラン後のケア
完走するランナーの疲れを癒やそうと、二の丸公園には温泉王国熊本ならではのおもてなし、植木温泉の足湯やマッサージコーナーも設けられていました。タンクローリーで源泉を運び込み、足と手を温めるブースには多くのランナーが詰めかけ、棒のようになった足を温めていました。植木温泉観光旅館組合の古田敏浩さんは「走った後、自力で歩くのが難しいランナーから、『気持ちよかった』との声が何よりうれしい。イベントを通して、植木温泉を知ってもらうきっかけになれば」と話していました。
自分の完走タイムを表示して写真が撮れるデジタルフォトスポットには、完走したランナーの長蛇の列が。熊本市中央区の下村栄見子さんは「熊本城マラソン参加は、第4回大会以来。つらい後半戦は、『応援ナビで追跡応援するからね』と言ってくれた先輩や友達の顔を思い浮かべながら前へと前へと足を運びました」と42.195キロを振り返りました。
ランナーにとってはもちろん、沿道で応援する地域の人、ボランティアとして参加した人、テレビで観戦していた人、それぞれの思いがつながり、たくさんの感動が生まれた10回目の熊本城マラソン。皆さんの心に、地域に、そして歴史に、それぞれのものがたりが刻まれたことでしょう。
※今回、熊本城マラソン「10のおもてなし」の中には、2023年3月末まで使用できるクーポンもあります。
大会結果などは、熊本城マラソンの公式HPでチェックしてみてくださいね!
https://kumamotojyo-marathon.jp/
(構成・取材・文・撮影/大平誉子)
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