熊本市にも多数ある、歴史的背景を持つ「まち」。地域の魅力を再発見し、生かす、「古き良きものを生かしたまちづくり」について、各地の仕掛け人たちに話を聞き紹介していく不定期シリーズ。
今回は、町屋が多く残る新町・古町地区に2021年6月に復活した「商工クラブ」の町屋再生のお話の後編。館で新たな歴史の1ページになるプレーヤーの皆さんにお話を伺いました。
「謎めかしい食、謎めかしい宿」 それぞれの謎が面白い
「商工クラブ」に掲げられた『清く、正しく、謎めかしく』というコンセプトは、飲食店の「.know」「古町 千」、宿泊の「葛籠」でも、表現されています。ただのテナントではなく、プロジェクトチームの一員として携わる皆さんの、プロジェクトへの想い、表現方法は、店それぞれです。
まずは、1階にある飲食店の一つ「.know」へ。
庭園を一望するカウンターのみの店内。重厚感あふれる雰囲気の中で、オーナーシェフの鍬本峻さんが生み出す唯一無二の料理を味わうことが出来ます。店の中心にあるのは、囲炉裏のみ。ここで、全ての料理を調理するというのです。
「使用する食材のほとんどを熊本産で揃え、炭や薪の熾火で調理し、他で出会うことのない『.know』の料理。地産地消の次のフェーズ“自賛地消”とでも言うのでしょうか。そんなフュージョン料理を召し上がっていただきたいと思っています」と鍬本さん。
プロデューサーの久保さんに誘われ、はじめて料理谷邸を訪れたときに、「とても心地よい気を感じました。ここで料理を作りたいと直感し、長い間考えた結果が、今の料理です」。訪れないと分からない全貌、そして料理。それが、謎めかしい…。これが、「.know」のコンセプトの表現方法というのです。
「『商工クラブ』でお店を出せて本当に良かった。それまで、熊本で店を出すこと自体にこだわってはいなかったのですが、ここで熊本の食材を新しい料理に仕上げ、熊本のお酒と共に提供し、それを熊本の人たちが食べてくれる様子を眺めているのが、何よりの幸福なんです」。カウンター内の端が、鍬本さんの特等席だと笑顔で語ります。
続いて訪れた「古町 千」は、小さな看板を掲げただけで、何を提供しているのか一見分かりません。建物横の露地を抜け店内に入ると、焼き場を囲んだカウンターが出迎え、はじめて「焼き鳥屋だ!」と分かるほど。これも、謎めかしいというわけです。
「はじめて格子越しに中をのぞいた時に、ここで焼鳥を焼いたらかっこいいだろうなって思ったんです。私たちは、飲食店から熊本を盛り上げたいと考えているので、この館との出会いは嬉しかったです」と店長の岩下徹さん。
中心市街地で人気の焼き鳥店「ひょごどり」の新ブランドとして誕生した「古町 千」は、プロジェクトへの参加を機に原点回帰し、シンプルに鶏の可能性を追求。黒さつま鶏や古処鶏、肥後のうまか赤鶏を使い分け、素材の旨みを存分に引き出すため、丸鶏を熟成しタタキとして提供するなど、これまでの集大成のような品々に出会えるということ。
「オープンから半年。この町・館の歴史を知り、ますます魅力を感じています。元々、市場もあった地域ですし、お付き合いのあったかつお節屋さんや八百屋さんも近くなって、何でも近所で揃うんです」。まさに、料理人冥利に尽きるということ。かつて、腕をふるっていた料理人たちも、そう考えていたことでしょう。
1階の中心にある「席貸」は、キッチン付きの10席ほどのイベントスペースです。これまで、県内外のゲストシェフを招き、飲食と空間のマリアージュを提供するイベントを行い、「130年の歴史を持つ館にマッチしていましたね」と「商工クラブ」のプロデューサー、久保さんも感動したと話します。
さらに奥に新しく設けられたスペースは、庭園を望む茶室です。ここは、「細川家と料理谷家の再会の場にしたかった」と、陶芸家・細川護光さんに依頼し「妙味庵」と命名されたといいます。こちらもレンタルスペースとして利用でき、「席貸」と共に、不定期で、「商工クラブ」主催のイベントも開催されるようなので、ホームページを要チェックです。
最後に訪れたのは、宿『料理谷邸 葛籠〜つづら〜』。怪しげなネオンに導かれ、2階へ登ります。ここは、韓国出身のユン・ホンジョさんが、奥様のふるさと・熊本に移住し、「古町で旅人が集うゲストハウスをしたい」と考えていたところ、縁が繋がりオープンに至ったそうです。
「韓国とゆかりのあるこの地域が、以前から好きでした。県の旅行関係の仕事をしていたご縁もあり、料理谷家の長女・山下みきさんとも前職で繋がっていたりと、熊本は一人介すと、みんな知り合いと言っても良いほど。驚きました」とユンさん。
コロナ禍でのプロジェクトの進行に、「正直、不安はありました。でも、築100年以上の古民家でドミトリーをしているところは少ないし、ポテンシャルの高さを感じたんです。それに、熊本は韓国や台湾、香港からの直行便もあるので、再開すればお客さんは来てくれると確信しています」。
花嫁の支度部屋だった場所は「貴賓室」として、他には、個室やドミトリーに生まれ変わった空間は、和洋が融合したモダンな雰囲気に。「130年の歴史を持つ町屋に、国籍関係なく旅人が集い、異文化が融合する。これって、謎めかしいですよね」とユンさん。ラウンジに旅人が集い、はじめて「つづら」が完成するのです。
未曾有の感染症に翻弄されながらも、新しいプレーヤーによって時を刻みはじめた「商工クラブ」。料理谷家をはじめとした運営メンバーの一人ひとりが、100年後200年後、歴史として語られる日を、私たちは見ることは出来ませんが、共に時を刻む一人になってみるのも、なんともロマンがあると思いませんか?
■ 商工クラブ
住所:熊本市中央区西阿弥陀寺町6
問合せ先:HPの専用フォームより
営業時間・休み:各店によって異なる
駐車場:無(近隣コインパーキングを利用)
■ .know
問合せ先:096-201-2041
営業時間・休み:18:00〜最終入店20:00、水・日曜休み
URL: https://www.instagram.com/knowkmt/
※2022年6月30日(木)まで休み
■ 古町 千
問合せ先:096-325-7269
営業時間・休み:17:00〜22:00(土曜15:00〜22:00、日曜・祝日15:00〜21:00)、不定休
URL: https://www.instagram.com/furumachi.sen/
■ 料理谷邸 葛籠〜つづら〜
問合せ先:070-8424-9705
チェックイン15:00・チェックアウト10:00
休み:不定休
URL: https://tudzura.jp
(取材・文・撮影/今村ゆきこ)※写真の一部は借用しています