辞書で「まちづくり」と引くと、「住みやすいようにまちを整えていくこと」とあります。高度成長期には新しいものがつくられていきましたが、近年は、その土地の歴史・風土を生かした「まちづくり」が多く見られるようになってきました。
古き良きふるさとを見つめ直したまちづくりと聞くと、とても興味が湧きませんか? もちろん、ここ熊本市にも、多くの歴史的背景を持つ「まち」がたくさんあります。熊本らしさを感じる、新たなスポットとなりつつある「古き良きものを生かしたまちづくり」。地域の魅力を再発見し、生かす、魅力的なまちづくりについて、各地の仕掛け人たちに話を聞き、ご紹介していきます。
今回は、町屋が多く残る新町・古町地区に2021年6月に復活した「商工クラブ」を訪ね、町屋再生のお話を伺い、前編と後編に分けて2回ご紹介します。まずは前編をどうぞ!
飲めや、歌えや。毎夜にぎわう大人の社交場が令和に復活
訪れる人の多くが、「こんな立派な町屋が残っていたなんて!」と驚く「商工クラブ」の建物は、明治時代に料亭として建てられたもの。肥後細川家の料理番を代々務め、初代藩主・細川忠利公に名前をいただいたという料理谷(りょうりや)家の建物です。
明治以降、130年の長い間、料亭・宴会場・旅館や社宅としての歴史を持つ「商工クラブ」。そこは、芸者を相手に酒を酌み交わす人々、祝言に集う人々など、幸福に満ち溢れた笑い声が響く時代や、旅人の休息の場になった時代など、いつの時代にも人と人が交差し、思い出が紡がれてきた場所だったのです。
残念ながら、熊本地震で被災し、一度、その幕を下ろしてしまいましたが、この建物を守り続けたいという想いは消えることはありませんでした。
一方、熊本地震後、次々と新町・古町の町屋が取り壊されていき、「商工クラブ」も解体か存続かを迫られます。再生プロジェクトが動き出したきっかけは、料理谷家の長女・山下みきさんが、周囲に相談したこと。
上乃裏通りのレストラン「テラス」や九品寺の複合施設「リバーポート9」を手掛けたプロデューサーの久保貴資さんと縁が繋がり、再生プロジェクトがスタートしたのです。
久保さん自身も、プロジェクトに携わるまで、「商工クラブ」の存在を認識していなかったそうで、「これは、館に命を吹き込むプロジェクト。単に再生やリノベーションではなく、事業の構築と館をどう残し、どう使うかという考え方が大事。投資ではなく資産という考え方です」。
一般的に「建物を残す」ことにとらわれがちな古民家再生は、どうしても投資になってしまいます。ところが、久保さんの考えは、資産として稼ぎながら後世に残していくということ。それは、「商工クラブ」の130年の歴史と、建物のポテンシャルの高さがあってこそ、というわけです。
町屋再生に立ち塞がる建築法を、 「商工クラブ」の歴史・背景がクリアしたことが大きな決め手
「実は、住居だった町屋を再生するとなると、用途が変わるため、新たに許可が必要になってきます。それが、町屋再生の一つの壁になるんです。『商工クラブ』は、その点では、飲食・旅館・簡易宿所の許可を持っていたので、この大きな館をそのまま活かすことができました」と久保さん。
「館の使われ方に気を配った時、謎めかしいという言葉が出てきたんです。旅をすれば裏通りに惹かれるし、歴史や文化も謎が多い。深く知れば知るほど、もっと知りたくなると思いませんか? この館にも、文化的に艶やかな色気を感じ、コンセプトを『清く、正しく、謎めかしく』としました」。
「多くの人々で賑わっていた100年前のように、『商工クラブ』で新しい流行が生まれる。そして、それが、また未来に語り継がれ歴史になる…。生まれ変わりながら流行り続けるんです」。久保さんの狙いは、歴史と流行の二項対立と話します。
飲食・宿泊・茶室・席貸の4つのコンテンツで構成された「商工クラブ」は、1階に2軒の飲食店と茶室、席貸(イベントスペース)があり、2階が宿になっています。大きな特長が、店主全員がプロジェクトメンバーということ。
2年近い月日、幾度も会議を行い、コンセプトにのっとった店作りを行ったことで、館全体が、ただの複合施設ではなく、一つの「商工クラブ」という存在に仕上がったというわけです。
コロナ禍で、まだまだ理想通りには稼働できないまでも、全てがフル稼働し、かつてのように、人々が酒を酌み交わし、行き交う場所になる日が待ち遠しいです。
後編では、「商工クラブ」で宿泊・飲食店を営むオーナーのみなさんに、お話を伺いました。それぞれの『清く、正しく、謎めかしく』を乞うご期待です!
■ 商工クラブ
住所:熊本市中央区西阿弥陀寺町6
問合せ先:HPの専用フォームより
営業時間・休み:各店によって異なる
駐車場:無(近隣コインパーキングを利用)
(取材・文・撮影/今村ゆきこ)※写真の一部は借用しています
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