■特別な土曜日の、贅沢な大騒ぎ
熊本城が被災後3年半ぶりに一般公開され、ラグビーワールドカップ開催を翌日に控えた10月5日。
熊本にとってちょっと特別な土曜日に、
STREET ART-PLEX KUMAMOTO EXTRAVAGANZA 2019が開催されました。
中心市街地の活性化を目的に、今年で18年目となるこのプロジェクトは、「都市デザイン」という位置付けで企画されているもので、“日常に表現活動がある街“をつくることを趣旨としています。
今回のEXTRAVAGANZAは、年に約10回開催されているSTREET ART-PLEX KUMAMOTOの集大成。
音楽フェスともコンサートとも一味違うEXTRAVAGANZA=贅沢な大騒ぎの模様をお伝えします。
■日常にあるSTREET ART-PLEX KUMAMOTO
まずは、STREET ART-PLEX KUMAMOTOについて知るため、
ディレクターとして携わってきた、渡辺善文さんにART-PLEXを体感する前にお話をうかがってきました。
STREET ART-PLEX KUMAMOTOのプロジェクトが立ち上がったのは、2002年。
当時は、全国的な課題として中心市街地の活性化が叫ばれている頃であり、中心市街地活性化法に基づいたTMO(タウン・マネージメント機関)が各地方に設立されていました。
「熊本市も例にもれず、次々に大型店が郊外にオープンし、中心市街地から人が流れていくのでは、と懸念されていた時に、商店街と市、商工会議所とが手を取り合い「何かしたい」と動きだしました」と、立ち上げ当時の記憶をたどる渡辺さん。
何か手を打たなければならない、でも何をするのか。
中心地に位置し、市民から“マチ”と呼ばれる「上通」「下通」「新市街」。その3つの商店街から有志が集まり、およそ半年間、毎週コンセプトワークを重ねたどり着いたのが、“文化に寛容な街 熊本“のきっかけをつくること、だったといいます。しかも、点々と離れている複数のストリート上(公共の場所)でジャンルを問わない“表現”を同時進行で発表していく現在のスタイルにたどりつきました。
「伝えることに真摯である、というポリシーに沿っていれば、表現方法は問いません。楽しいこと、面白いことに理解を示す人々が自然に集うようになり、STREET ART-PLEX KUMAMOTOのスタイルがどんどん形になっていきました」と渡辺さん。
開催をあえて「イベント」と呼ばず、ボランティアで運営し、スタッフもいっしょに楽しむスタイル。いわゆる音楽イベントがハレだとすると、STREET ART-PLEX KUMAMOTOが目指したのは日常なのです。
STREET ART-PLEX KUMAMOTOでの表現活動を体験したアーティストが、次のアーティストを呼び、次から次へとその輪が広がっていったといいます。だから、18年もの長い間、続いてきたのでしょう。とても素敵な連鎖です。
熊本で暮らしている人にとっては、偶然にパフォーマンスを見かけたことがある人が多いかもしれません。その偶然の出会いこそが、表現にふれる第一歩。パフォーマンスを見た小学生が、数年後には音楽を志すようになるなど、18年積み重ねてきたことが、いろんな化学反応を起こし、熊本の“マチ”に根付いているのがわかります。
それでは! 年に約10数回開催されているSTREET ART-PLEX KUMAMOTOの中でも一年の集大成ともいえる、EXTRAVAGANZAを体験レポートします!
■熊本の“マチ“が音楽に包まれる
熊本の“マチ”の8カ所に設けられた特設スペース。
各通りが持つ雰囲気に合わせてコーディネートされた、さまざまなパフォーマンスが同時に繰り広げられます。
オープニングアクトは、上通びぷれす広場。
シンガーソングライターcoby、韓国打楽器奏者キム・ドンウォン、Jardin Noir Ensembleなどによるセッションは、この日に生まれる、この日にしか聴くことができないナマモノです。
「ブレイクしたいな~。Oh yeahと言ったらブレイクね」
オープニングアクトの打ち合わせの様子。
その場で音合わせする様子に、本当に“今”パフォーマンスが進行しているのだと驚かされます。
この臨場感こそが、STREET ART-PLEX KUMAMOTOの醍醐味。
なにかが起こるという期待感が、人々を呼び寄せます。
まだ明るさの残る17:30。
聴こえてきたのは、今年の夏亡くなった正調・五木の子守唄の歌い手である堂坂ヨシ子さんへのレクイエム、『五木の子守唄』のアレンジ。
ガタガタ、プシューッ、パポ、パポ……。
路面電車やバス、信号などの音すらも受け入れ、一緒に奏でているかのよう。
音楽が街に溶け込んでいく、秋の夜のはじまりです。
■世界の表現に出会う小旅行
スクランブル交差点を渡った、下通の入り口。
しっとりとした空気は一変、そこには、地球の裏側・ブラジルの熱気が。
鮮やかな衣装、弾けるような笑顔が目を引く火の国 AFRICA。
踊りがはじまると、手拍子の音が次第に大きくなり、それを囲む輪もどんどん大きくなっていきます。
「ふぅー!」「イェーイ!」と声を出しながら、脇を通る人も。
♪屋根があって壁があって息をしてこうして君といてそれだけで十分さ~
アーケードから角を曲がると聴こえてきた、凛とした歌声。
ここは、カリーノ三年坂テラス。ステージには〆縄をモチーフとしたオブジェが飾られ、神聖な雰囲気です。ここでは「coby channel」と題して女性シンガー3人による「巫女」をテーマにしたパフォーマンスが披露されました。
シンガーソングライター川原一紗は、キーボードで弾き語り。
「波に揺られるような時間をお過ごしください」との言葉通り、観衆は左右に体を揺らします。
喫煙所で一服する人たちが、思わず聴き入っている姿も印象的です。
■あちこちに現れるアーティスト
なんだか異様な空気が流れはじめた、下通。
Jardin Noir Ensembleが奏でるリズムに乗って繰り広げられていたのが、ひょっとこ踊り!
かと思えば、ピアノ演奏に合わせて踊る伊藤虹。
最初は、怪訝そうに見ていた海外の方も、引き込まれていきます。
素早いタッチによる鍵盤の動きが目でも楽しめるようオープンにされたアップライトピアノ。
はらかなこは、演奏しながら何度も振り返り、踊りとの調和を図ります。
この日が初めてとなる2人のセッションは、言葉では言い表すことのできないエネルギーに満ちていました。
熱い拍手に包まれたピアノを囲むように現れたのは、またもやひょっとこ。
STREET ART-PLEX KUMAMOTOでは、ロービングパフォーマンスとして
アーティスト自身が会場を行き来し、各拠点をつないでいくのです。
先ほどのパーカッションとは印象が大きく変わる、ピアノ演奏によるひょっとこ踊り。
こうして、再会を果たした人々は、また足を止め大きな円をつくるのでした。
■歓楽街で味わう、上質な音楽
すっかり日が落ち、あたりの飲食店が賑わいを見せる時間。
フィナーレは、各会場でセッションが行われます。
新市街では、中田博TRIOとJ×Cがコラボ。
何も知らず街を歩いているだけで、ジャズの曲や知識に出会える。
そんな体験ができるのも、この夜ならでは。
耳にしたことのあるメロディーが響き渡るのは、下通。
ピアノとバイオリンのアンサンブルは、手拍子したくなるような軽快なクラシックを織り成します。
城見町は、Guitar Session。
屋台から漂うおいしそうな匂いの煙、ビールを片手に持った赤ら顔の人、美しいギターの音色。
一見相容れないものたちがマッチする不思議な夜に、街行く人はちょっと微笑んでしまったことでしょう。
最後は、びぷれす広場にてGrand Session。
民謡調のメロディーに乗せて、ギター、サックス、パーカッション、歌、演劇……それぞれの表現が溢れます。体に響く音楽、見たことのない表現に引き込まれてしまう非日常の空間。
「なにかよくわからないけど、すごい!」
そんな感覚を生むことこそが、主催者の望みだと言います。
自然と生まれた手拍子が大きな大きな拍手となった頃、今年の「贅沢な大騒ぎ」は幕を閉じました。
今年は12月、来年は2月と3月に開催が決定しているSTREET ART-PLEX KUMAMOTO。
こんな夜を味わいに、音楽に包まれるこのマチへ遊びに来てください。
詳しい内容や開催の日程については、公式ホームページやフェイスブックでご確認ください。
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