辞書で「まちづくり」と引くと、「住みやすいようにまちを整えていくこと」と書かれています。高度成長期には新しいものがつくられていきましたが、近年は、その土地の歴史・風土を生かした「まちづくり」が多く見られるようになってきました。
古き良きふるさとを見つめ直したまちづくりと聞くと、とても興味が湧きませんか? もちろん、ここ熊本市にも、多くの歴史的背景を持つ「まち」がたくさんあります。熊本らしさを感じる、新たなスポットとなりつつある「古き良きものを生かしたまちづくり」。地域の魅力を再発見し、生かす、魅力的なまちづくりについて、各地の仕掛け人たちに話を聞き、ご紹介していきます。
今回は、2021年3月にオープンした情報発信基地「川尻商店 粋」の代表・栗﨑さんに、「粋」を通して行うまちづくりについてお話を伺いました。
歴史的遺産が数多く残る川尻。 継続的なまちへの集客を目指して有志たちが動き出した
熊本市の南に位置する川尻。国道から一本入ると、空気が変わるような気がするのは、川尻に残る歴史的な建物が醸し出している情緒からでしょうか。加藤清正の治水事業の恩恵を受け、港町として栄えていた川尻には、今でも、河尻神宮などをはじめとした神社仏閣、老舗酒蔵、和菓子屋などの老舗店が残り、江戸時代の雰囲気を感じることができるのです。
海外との交易港として、物流の集散地として栄えた地区には、桶や刃物づくり、染物などの伝統工芸も残り、商店街にある「くまもと工芸会館」では、その歴史を感じることができます。
船着場跡には、熊本最古の公衆トイレも残るなど、ユニークなスポットも。
さまざまな魅力が残る、まさに観光スポット! さぞかし、観光客で賑わっているかと思い、「川尻商店 粋」の代表・栗﨑さんを訪ねると…。
「平日は観光客が少なく、人通りはまばら。川尻の課題は、まさにこれなんです。私たちは、これまで精霊流しや河尻神宮の例大祭など、さまざまなイベントを通してまちの魅力を発信してきたのですが、地域外の方で賑わうのはイベントの時だけ。日常的に安定した集客をするためには…と考え、今回のプロジェクトをスタートしたんです」。
栗﨑さんは、地域で米屋を営む根っからの川尻っ子。大好きな川尻。その大きな魅力は「人が熱いまち」と考え、人と人をつなぐ観光動線をつくるために「川尻商店 粋」をオープンさせたと言います。
栗﨑さんと共に熱い思いで取り組むのは、「川尻商店街連合会」のみなさん。2020年7月に経済産業省の補助金が採択され、「一般社団法人 川尻まちづくり」を創設。栗﨑さんが代表となって運営がスタートしたというわけです。
商店には、川尻の「食」と「情報」が集結。2階のゲストハウス「川尻泊(かわしりのとまり)」は、観光の拠点や地域外から帰省した人たちの宿泊に。「観光スポットを巡るためには、拠点が必要だと考えたんです。まず、ここに来て情報を得て、行きたい場所を探す。そして、またここに戻ってきて、さらに別の場所へ…。なんて使い方も良いと思います」。
商店にはレンタルサイクルも用意されているので、点在する観光スポットを巡るのにはピッタリ。情緒あふれるまちを自転車で巡れば、車では気づかない新たな魅力を発見できそうだし、何よりエコで健康的。ヘルスツーリズムも含んだ川尻町巡りができそうです。
地域を巻き込み、動き出したまちづくり。動き出したら、止まれない!と、前進し続ける仕掛け人たち
「プロジェクトが立ち上がり3月のオープンまでは、とにかく『事業のスタート』が目的で無我夢中でした。無事にスタートできたので、今は次のフェーズ。さらにブラッシュアップすることが目標です。たくさんの方を巻き込んでのプロジェクトなので、動き出したら、前進し続けるしかありません」と栗﨑さん。
もちろん、自身の店を経営しながらのまちづくり。多くのメンバーが、二足の草鞋をはき、地域活性のために奔走しているのです。
地域を巻き込んで行ったプロジェクトの一つ「わっしょいポイント」は、地域の共通ポイントカードのこと。35店舗からスタートし、「プレミアム商品券」(※)の事業と併せて54店舗にまで増えたそう。
「新しいことを始めるということは、不慣れなシステムに商店街の人たちにもチャレンジしてもらうことなのですが、川尻商店街では、ご年配の方にもたくさんご協力いただいているんです。川尻は、タテの繋がりが強く、先輩方が協力的なのがありがたいですね」。地域が一丸となって取り組むまちづくり。先輩方の応援・協力は、これほど心強いものはないでしょう。
他にも、ホームページを作成したり、大型バスが3台停められる公衆トイレ付きの駐車場を作ったり。観光マップも製作中ということで、栗﨑さんをはじめとしたメンバーはてんやわんや。
「2・3月は川尻月間として、和菓子のイベントや、宗派を越えて行う『寺フェス』、『瑞鷹』の酒蔵祭りも。他にも、ニッチな仕掛けとして、蔵や寺を活用したコスプレ撮影会、川尻出身の世界的な柔道家・木村政彦さん関連のクラウドファンディングも予定しているんです」。次々と出てくる企画は、新型コロナウイルスの感染状況を見ながら準備を進めているそう。時代が変わり、集客方法も変わりつつある昨今。まちづくりも、手探りで行われているようです。
※「プレミアム商品券」の販売は終了しています
川尻情報発信基地「川尻商店 粋」で出会うメード・イン・川尻
「川尻商店 粋」では、さまざまな「メード・イン・川尻」に出会うことができます。川尻産の野菜や、味噌などの調味料、和菓子など、各商店から集まった商品だけでなく、プライベートブランドも数多く並ぶのが特徴です。
中でもお米のお菓子“さくさくキャラぽん”は、軽い食感が絶妙だと人気で、塩キャラメルや抹茶など、種類は3種。さらに、改良する予定というから楽しみです。
奥にはイートインスペースもあり、カフェとして利用できます。「店のスタッフにおすすめスポットを聞いて、地図を見ながら、ドリンクを飲みながら、計画を練ってください」と栗﨑さん。10席ほどのイートインスペースでは、“河尻ハイカラサンド”などの軽食や、豊富に揃うドリンクがいただけます。
「観光客のみなさんと地域の方が繋がることはもちろん、地域のみなさまにとっても気軽に立ち寄ることができる“寄りどころ”になるような雰囲気づくりを心がけています」と店長の河野さん(左)とスタッフ。
地域の人が気軽に買い物やお茶を飲みに訪れたり、観光客が道を訪ねに来たり、お土産を買いに来たり。そこで出会った人たちで、会話が生まれたり…。さまざまな人と人が交差する場所になることを目指し、これからもブラッシュアップし続ける「川尻商店 粋」。地域のイベントやキャンペーンも続々と仕込み中なので、併せて楽しみたい、注目のスポットです。
■ 川尻商店 粋(すい)
住所:熊本市南区川尻1-3-77
問合せ先:096-311-3777
営業時間:10:00〜18:00 休み:水曜
URL: https://kawashiri-sui.com
駐車場は「瑞鷹 東肥蔵」を使用
(取材・文・撮影/今村ゆきこ)※写真の一部は借用しています
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