熊本で育ち、全国・世界で活躍する若者がいます。
熊本で暮らし、日々活動に励む若者がいます。
熊本を愛し、熊本のこれからを真剣に考えている若者がいます。
このまちの未来を担う彼らは、何を思い、どんな日々を送っているのでしょうか。
そんな彼らと、彼らが暮らす熊本のお気に入りを紹介する『熊本の未来を担うクリエイター』。
第2回は、YouTuberとしても人気を博する、くまバリ・リーダー高橋尚子(たかはししょうこ)さんです。
「心のバリアフリーを広めたい」
道にある段差や力を必要とする扉、両手を使わないと扱いづらいモノなど、
この世にはあらゆるバリアが潜んでいます。
もちろん、誰もが暮らしやすい環境が整備されることが望ましいですが、
すぐに全てを叶えることはできません。
それでも今日、この瞬間からできることがあります。
それは、みんなが「心のバリアフリー」を持つこと。
バリアに感じられることがあったとしても、周りの人が少し手伝うだけでそれは解決するのです。
段差に車椅子が引っかかったときは、後ろから押す。
重い扉は、力のある人間が開ける。
両手が必要な動作は、手を貸す。
工事したり特別なアイテムを購入したりしなくても、
手を差し伸べる人さえ居れば、いつでもどこでもバリアフリーな空間はつくれます。
尚子さんは、熊本に「心のバリアフリー」を広める活動の第一人者。
車椅子女子として、YouTubeでさまざまな情報を発信しています。
デザインの力で福祉を明るく
10年前のある冬の日、高校3年生だった尚子さんの人生は変わりました。
交通事故による頚椎損傷。鎖骨から下に麻痺が残り、車椅子生活が始まったのです。
県大会で優勝し大学でも卓球をする予定だったほど、卓球に力を注いでいた尚子さん。
事故に遭ったのも、大会の帰り道でした。
夢を追いかける17歳の女の子が、突然体の自由を失う。
その絶望は、計り知れません。
いくつもの困難を乗り越えて、やさしい笑顔で前を向く彼女には、
熱い想いと大きな夢がありました。
約6年のリハビリを経た尚子さんが職業として選んだのは、Webデザイナーでした。
手が不自由でもできるパソコンを使った仕事がしたいと専門スクールに通い、基礎技術を習得。
県内のデザイン事務所に勤務後、独立して今に至ります。
美容室や飲食店、学校関連など、さまざまなジャンルのホームページを手がけており、
自身のホームページも、デザインから構築まで尚子さんがすべて一人で制作。
昨年は、介護福祉士の資格を持つドライバーによる「すまいるタクシー」の
ホームページも公開しました。(https://sumairutaxi.com)
センスが光るそのページは、一般的な福祉のイメージと少し異なります。
「いい意味で福祉感をなくすことを意識しています。
福祉は暗いイメージを持たれがちなので、デザインの力でそれを払拭したいです。
純粋に楽しんでいる姿を通して、福祉の情報を伝えられたらいいなと思っています」
自分が欲しかった情報を発信
2019年8月、尚子さんは「全員が生きやすい社会になってほしい」という強い想いから、
バリアフリープロジェクト・くまバリを立ち上げました。
当初は、車椅子で訪れやすいお店を紹介するサイトを運営する予定でしたが、
動画クリエイターの中川典彌さんと出会い、シフトチェンジ。
YouTubeチャンネルを開設し、車椅子ユーザー目線での情報発信を始めました。
お出かけ情報から車の運転方法、メイク動画までバラエティに富んだ内容。
尚子さんが自分自身や事故について語る動画が注目を浴び、
「しょうこちゃんねる」の登録者数は今や5.8万人(2021年3月現在)に上ります。
「動画を発信していくうちに、なぜ車椅子なのか、どのような障害があるのかといった
私自身のことを話しておかなければならないと考えるようになりました。
日常生活のヒントを発信すると、麻痺の状態についての質問がよく寄せられます。
正しく参考にしてもらうために、私自身の話は必要な情報でした。
私の人となりを知ってもらった上で、見てもらうことが大切なのだと思います。
特に反響が大きかったのは、排泄障害について話した動画。
デリケートな話題で私としては勇気の要ることでしたが、
同じような障害を持つ女性から“救われた“という声をいただきました。
当事者にしかわからない悩みやリアルな話は当時の私が欲しかった情報。
全部赤裸々に話せるわけではないけれど、
できる範囲で情報を届けて、誰かの力になれたらと思います」
熊本を日本一のバリアフリー大国に
尚子さんが自分自身で気に入っている動画は、天草プチ旅行企画。
(https://www.youtube.com/watch?v=x8OlTmAU-9g)
熊本市内から福祉タクシーで天草まで出かける模様が収められており、
車椅子ユーザーでも立ち寄れるスポットを絶景とともに紹介しています。
熊本の「体に不自由があっても出かけられる場所」を紹介すること、
そして、増やしていくことが、尚子さんの目標です。
「熊本を日本一のバリアフリー大国に」という夢は、
たくさんの仲間によってどんどん広がっています。
今後取り組んでいきたい活動もたくさんあるそう。
「本を出すことも、叶えたい夢の一つです。
私が救われた言葉を紹介する、エッセイ本を出版したいと考えています。
また、商品開発にも携わりたいという思いがあり、実際に今、
ユニバーサルデザインの化粧品を開発するプロジェクトが進行中です。
手に麻痺があることは不便ですし、弱点であるかもしれません。
でも、そんな私だから気づけることがあると思うのです。
いろいろな方に意見をいただきながら、誰もが使いやすいものを作れたらと思います。
あとは、くまバリの活動。協力したいと言ってくださる方がたくさんいらっしゃるので、
人が集まれる世の中になった暁には、ぜひ、くまバリのイベントも開催したいです」
心のバリアフリーカフェ『COFFEE & BAR AA』
尚子さんの熊本お気に入りスポットは、
熊本市北区のカフェ『COFFEE & BAR AA(ダブルエー)』。
入り口に階段があるものの店員さんが車椅子ごと抱えてくれ、
事前に電話しておけば車椅子でも座りやすいテーブル席を用意してくれるという
まさに心のバリアフリー実施店。
「しょうこちゃんねる」でも紹介されています。
(https://www.youtube.com/watch?v=Y356n7rf3co)
尚子さんは、ロイヤルミルクコーヒーを片手に、店主・高倉さんと話して過ごすことが多いそう。
砕いたコーヒー豆を牛乳に漬け込んでつくる一杯は、
ミルクの甘みの中にコーヒーの香りとコクを感じることができます。
「コーヒーの資格を持つ高倉さんが
こういうのを飲みたいというリクエストに合わせて淹れてくださいます。
AAはごはんもおいしいですし、とにかく雰囲気が好きです。
ぜひ、みなさんも足を運んでみてください」
【高橋尚子】
1993年生まれ、熊本県山都町出身。
くまバリ・リーダー、Webデザイナー。
YouTuberとして全国、世界へ福祉の情報を発信中。
「Shoko 車いすライフ」
「くまバリ」
COFFEE & BAR AA(ダブルエー)
住所:熊本市北区麻生田4-2-40
Instagram:https://instagram.com/coffeebar_aa/
取材・記事:清原 薫子
撮影:原史紘
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