熊本は度重なる災害に見舞われながらも、阿蘇の橋や、熊本城、街並など、少しずつ復興が進んでいます。その復興は、県外にいながら熊本を思う人たちの応援にも支えられています。そのひとつが、熊本地震の復興支援を目的に2017年に始まった「くまもと復興映画祭」。熊本地震から5年の節目を迎える今年は、4月16日~18日に熊本城ホールを会場に開催されます。
昨年10月に開催された「くまもと復興映画祭」の上映作品「ソワレ」では、外山文治監督と主演女優の芋生悠さんがゲストとして登壇。父親が熊本で働いていたという、熊本にゆかりのある外山監督と、熊本県出身の芋生さんのお二人に、映画祭を通して感じた熊本の変化や、映画人から見た熊本の魅力などを聞きました。
映画祭を通して感じた「街全体のよみがえり」。 映画を届けることで熊本の力になりたい
―くまもと復興映画祭に参加されて、熊本の変化など感じられることはありましたか。お2人の今のお気持ちを聞かせてください。
(外山)この映画祭に参加するのは2回目なんです。3年前に参加した時、熊本城に行きましたが、まだ震災のダメージが色濃く残っていて。
それから3年ぶりに訪れてみたら、こんなに素敵なホールができていて…。当時はなかったものがあって、街全体がよみがえっている、というのを感じますね。まさに復興映画祭だと思います。
(芋生)熊本に久しぶりに帰って来て、みんなの顔を見ることができて、とにかくほっとしています。私は、この映画祭がまだ「菊池映画祭」だったとき、女子高生の時に見に行っていました。そこで映画作りに興味を持ったことが、女優を志すきっかけにもなったんですよ。
女優を目指して上京し、その直後に地震が起きて映画祭の名前が「復興映画祭」に変わり、その後も豪雨などの災害が起きました。私は東京にいたので、熊本の皆さんが大変だった時に、その経験を分かち合えていません。
東京からは何もできずに無力さを感じていたので、ようやく自分の作品を熊本に持ち帰って観ていただけたことで、少しは力になれたのかなという気がしています。
映画の撮影から見た、熊本の魅力
―芋生さんは、出演された映画「♯ハンド全力」の熊本ロケで、他の土地にはない魅力を感じましたか?
(芋生)仕事柄、撮影のためにいろんな土地へ行きます。そこで、地元の人と仲良くなってずっと連絡を取り合ったり、その土地の自然が美しかったり、食べ物が美味しかったりと、どこもいいところだなと思います。でもやっぱり熊本だと「帰ってきた」という安心感が大きくて。1ミリも気負わずにのびのびと撮影できました。
しかも熊本の地に役者として帰って来た、というのが嬉しかった。この場所で自分の本業ができるということがすごく光栄だと思うので、演じることを一番楽しめる場所ですね。
―外山さんは福岡のご出身ですが、菊池で「春なれや」の撮影をされています。映画を撮る側から見た熊本の魅力を教えてください。
(外山)熊本は元々ふるさとみたいなものなんです(笑)。実は、父親が鶴屋百貨店でずっと働いていました。震災の時も鶴屋の催し会場にいて…。
菊池で撮影したのは、桜が一番きれいなところを日本中で探して、たどり着いたのが菊池だったからなんです。何か結びつくものを感じました。
熊本の路面電車が走っている風景や、お城が人々のくらしを見守っている風景というのは、どこにでもあるものではないので、すごく惹かれますし憧れます。天草の海や菊池、宇土など、綺麗な場所もたくさんあって、映画的魅力にあふれていると思います。
映画祭で訪れたところに、今度は撮影隊と一緒に行くというのはよくあります。映画祭の時に感じた魅力は、後々の映画作りにつながっていくんです。前回の短編映画だけでなく、今後は新しい映画の撮影隊と来ることもあるかな、と思っています。
街全体が活気にあふれている熊本
―熊本市内で「いいな」と、気になっているところはありますか?
(外山)ベタですけど、下通り・上通りアーケードですね。その通りのカプセルホテルによく泊まっているので(笑)。熊本の街の活気っていうのは、なんだか他の街と違うような気がして、いいなあと思います。
僕は福岡出身で、佐賀に祖父がいて、宮崎でも10年間過ごしましたけど、やっぱり熊本が九州で一番エネルギーが詰まっているような気がします。ここの観光スポットが、というより、街全体の熱気が強いなと思いますね。
―芋生さんは熊本に住んでいらっしゃった時、どのように過ごされていましたか?
(芋生)友人と遊びに行くのは光の森が多かったですが、プリクラを撮ったり映画を観たりした後は、熊本市内に来て上通り・下通りを散策するのが定番でした。ちょっと脇道に入って、いっちょまえに(笑)、おしゃれなカフェや洋服屋さんに行っていました。
―どんな学生さんだったのでしょうか?
(芋生)オタクでした(笑)。高校は美術コースで美術部だったんですけど、美術部はみんな漫画やアニメに詳しくて。逐一、「これがいいよ」と教えてくれるので私も洗脳されて(笑)、好きになりました。
―熊本の風景で絵を描きたい、ひらめくというスポットありますか?
(芋生)大津町の高校に通っていたこともあって、大津町が大好きなんです。特に、夕陽に照らされた大津駅が、情緒があってすごく好きです。学生時代はよく、その絵を描いていました。
熊本の女性は心が強くて格好いい。 それが本当の魅力かも!?
―外山監督にお聞きします。芋生さんの女優としての魅力をどう感じていますか?
(外山)本人がどこまで自覚しているか分かりませんが、人としての深みみたいなものを感じます。彼女の年齢の女優さんは一番多いんですが、その中でも突出しているものがたくさんあると思います。流行に左右されない強さだったりとか。
普遍的な人間の感情というものを表現できる珍しい女優さんだなと思っています。だから今回、ヒロインに選んだんですけど。映画界で、独特なポジション、存在になっていくだろうなと思っています。
ー熊本気質を感じますか?
(外山)めちゃくちゃ感じます(笑)。熊本の女性はとても強い、そういう印象があります。気性が激しいわけではなくて、心が強いっていう意味ですね。
今回、彼女の役は非常に難しい役だったんです。並みの女優だときっと途中で挫折してしまうだろうというくらいの役でした。彼女だから演じ切ることができたと思います。
元来もっている心の強さと、繊細な表現力とのバランスではありますけど、そういったものがあったと思います。こんな話するの珍しいよね(笑)。
(芋生)そうですね。私の地元の熊本にいるからですか(笑)。
(外山)今回、スタッフキャストも熊本の人がいっぱいいたんですよ。スナックのママ役を演じてくれた俳優さんは、必由館高校出身でしたし、アシスタントプロデューサーの女性も菊池出身だったんです。熊本の女性の力をたくさん借りて、タフな映画を作った感じです。
(芋生)そう思うと、熊本の女性って、(他の土地の女性と)違いますよね。熊本の魅力って、もしかしたら女性なのかもしれないなと思います。私は母が大好きなんですけど、母は本当に強い。内からの強さがあって格好いいと思います。
(外山)熊本の女性に助けられまくってます(笑)。最近活躍されている役者さんにも、熊本出身の方が多いじゃないですか。行定監督のこれまでのメイドイン熊本の作品に出てくる役者さんも、一流どころの方々が熊本から出てきている。
そういったものを輩出する文化があると思うんですよね。役者の世界でもちゃんと生きているという気質というか。本当に熊本の女性は強くてかっこいい、タフですね。
―最後に、熊本のファンの皆さんにメッセージをお願いします。
熊本はいつでも訪れたい街。 活力のある、今のままでいてほしい
(外山)熊本では自然災害が立て続けに起こっていて、東京から見ていて本当に胸を痛めていました。
撮影でお世話になった場所もありますし、芋生さんを通じて熊本のことは身近に感じていますので、胸が痛かったですけど、こうやって訪れると、生きる気力に満ち溢れた人が多いなあと感じました。
熊本の皆さんから元気をもらっているのは、私たちの方じゃないかなと思います。映画祭のゲストとして来てはいるものの、皆さんの生きる気力に触れて、私たちがエールをもらっているような感じなんですよね。熊本はいつでも訪れたい、活力のある街です。ずっと今のままでいてほしいと思っています。
熊本出身の女優として成長し、 応援してくれる人たちに恩返しがしたい
(芋生)改めて熊本に帰って来て、みんなが「応援しとるけん」と言ってくれ、温かさに包まれて、もっと頑張りたいという気持ちが湧いてきました。応援してくれている人たちに恩返ししたいですね。
熊本の魅力は自然だったり、美味しい食べ物だったり、水だったり。県外の友達におすすめしたい場所もたくさんあります。あと、人が本当にいい! 優しくて温かくて力強い人たちがたくさんいるので、熊本に遊びに来てほしいな、と思います。
私が映画に出ることで、「熊本の女優さんらしいよ。どんなところで育ったんだろう」と、県外の方が熊本に来るきっかけになれたらいいなと思っています。そのためにも女優活動を頑張っていきます。これからもよろしくお願いします。
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