2022(令和4)年に入り、水前寺成趣園の参道に新たな店がオープンするなど、これまでとは違った息吹が感じられるまちに変わりつつある水前寺。川のせせらぎに耳を傾け、細川家の歴史や文化に触れながら周辺を歩いてみると、これまでとは違った水前寺を感じられるかもしれません。

今回は、熊本の観光名所・水前寺成趣園かいわいを訪ね、“肥後細川家の文化と歴史に出合えるまち”の魅力をシリーズでお伝えします。まずは、2021(令和3)年に築庭350年を迎えた水前寺成趣園や出水神社の歴史や見どころをご紹介。さわやかな初秋の風が心地いいこの季節。ぜひ出かけてみてはいかがですか。

阿蘇の伏流水が湧き出るまち

熊本市中心街の辛島町から健軍方面へ車で約10分。街並みを楽しみながらゆったり市電に揺られるなら約20分。「水前寺公園駅」のアナウンスで市電を降り路地に入ると、清らかな水がこんこんと湧く藻器堀(しょうけぼり)川が見えてきます。川底が見えるほど透明度の高いこの川は、今でもぷくぷくと水が湧き出ており、その美しさに目を奪われます。

川底が見えるほど透明度の高い藻器堀川
川底が見えるほど透明度の高い藻器堀川

川沿いをてくてく北西に歩いていくと、熊本の観光名所・水前寺成趣(じょうじゅ)園の参道へたどり着きます。

熊本地震後は、池の水が枯渇するほか、大鳥居が倒壊するなど大きな被害に見舞われましたが、2021(令和3)年には表参道に木製の大鳥居が完成。昨年は第3代熊本藩主細川綱利公による築庭から350年を迎えました。

2021(令和3)年に表参道に完成した出水神社の大鳥居
2021(令和3)年に表参道に完成した出水神社の大鳥居

350年の時を超え、四季折々の美しさで魅了する回遊庭園

写真右が初代細川家当主藤孝(幽斎)公、左が初代熊本藩主忠利公
写真右が初代細川家当主藤孝(幽斎)公、左が初代熊本藩主忠利公

水前寺成趣園は、初代熊本藩主・細川忠利公が清水の湧くこの地を気に入り、「水前寺御茶屋」を整備したのが始まりといわれています。30年後には、第3代綱利公が阿蘇の伏流水を生かした回廊庭園整備に取り掛かり1671(寛文11)年、今の美しい姿の水前寺成趣園を完成させました。

「水前寺成趣園」は、若い頃から漢詩文に親しんでいた綱利公が陶淵明の漢詩文「帰去来辞」の一節「園日渉以成趣」から名付けたそう。その歴史と景観の美しさから国の名勝・史跡にも指定されています。

水前寺成趣園の見どころと言えば、何と言っても最初に目に入る富士山を模した築山。

手入れの行き届いた青々とした芝が映え、阿蘇の伏流水をたたえる見事な回遊式庭園となっています。約1万ヘクタールあるという池には、コイが悠々と泳ぎ、シラサギがゆっくり羽を休める姿も絵になります。

また時折、白いスッポンも姿を見せるそう。古来から「神様の使い」「福運を呼ぶ」とされる白い生き物。ここで出合えたら、何か良いことがあるかもしれません。

園内をゆっくり散策すると奥には、肥後椿や肥後菊など「肥後六花(ろっか)」が見られる肥後名花ゾーンや春と秋の大祭で多くの人で賑わう流鏑馬(やぶさめ)の馬場、能楽(のうがく)殿があります。

肥後六花のひとつ肥後芍薬(しゃくやく)
肥後六花のひとつ肥後芍薬(しゃくやく)
毎年、秋季大祭が開催され、2022(令和4)年は10月18日(火)から10月20日(木)まで。10月16日(日)に流鏑馬が行われます
毎年、秋季大祭が開催され、2022(令和4)年は10月18日(火)から10月20日(木)まで。10月16日(日)に流鏑馬が行われます
8月の第1土曜に行われる薪能
8月の第1土曜に行われる薪能

観光客に人気の“映え”スポット

園内には、京都伏見稲荷大社の分霊を祀る「稲荷神社」や縁結びの木「梛(なぎ)」のベンチなど、観光客やカップルに人気の“映え”スポットもあります。

梛の葉は、縦には簡単に裂けるけれど、横にはなかなかちぎれないことから、男女の縁が切れないようにと、昔は女性が葉を鏡の裏にしまっておくという習慣もあったそうです。また苦難を「なぎ払う」ことにも通じ、葉を厄除けや商売繁盛のお守りとして大事にしているという人もいるそうです。

朱塗りの鳥居が印象的な「稲荷神社」 
朱塗りの鳥居が印象的な「稲荷神社」 
梛の木の下にある石のベンチは熊本地震で倒壊した鳥居を再利用したもの
梛の木の下にある石のベンチは熊本地震で倒壊した鳥居を再利用したもの

庭園を一望できる特等席

園内にある「古今伝授の間」は、1912(大正元)年に京都御所から移築復元されたもの。もともと八条宮智仁親王の学問所で、細川藤孝(幽斎)公が古今和歌集の解釈の奥儀を智仁親王に伝授した建物だそうです。約400年前に建造された火灯窓や柱などの一部が今もこの地で時を重ねています。

見学は自由にできますが、お抹茶とお菓子をいただきながら、特等席から庭園を眺めてみるのもおすすめです。一服しながら見る庭園の美しさは格別です。

古今伝授の間から眺める庭園
古今伝授の間から眺める庭園

細川家歴代藩主とガラシャ(忠興公の妻)を祀る神社

1877(明治10)年、旧細川家の藩士たちが西南戦争で焼け野原となった園内に、藩主の御霊を祀り、人々の心を安定させ、まちの発展につながるよう出水神社を創建しました。神社には歴代の細川藩主の他、ガラシャの名で知られる2代目細川家当主忠興公の妻の御霊が祭られています。

また神社内には、忠利公が育てていた盆栽を移植した樹齢400年を超える「五葉の松」や市民にも親しまれている神水「長寿の水」があり、自由に飲むことができます。

水前寺成趣園をつくった細川藩主の思いや歴史、文化に心を寄せ、時代背景を思い浮かべながら回ってみると、より楽しめるかもしれませんね。

歴代細川藩主とガラシャ夫人を祀る出水神社
歴代細川藩主とガラシャ夫人を祀る出水神社
御朱印帳にはガラシャ夫人をデザイン
御朱印帳にはガラシャ夫人をデザイン

次回は、水前寺を盛り上げる水前寺活性化プロジェクトチームの活動や参道商店会の取り組みなどをご紹介します。お楽しみに!


■水前寺成趣園(出水神社)

住所:熊本市中央区水前寺公園8-1

問い合わせ先:096-383-0074

営業:8時30分~17時(入園は16時30分まで)※北門は9時30分~16時

料金:400円(16歳以上)、200円(6歳~15歳)

ホームページ: http://www.suizenji.or.jp/


■「古今伝授の間」(香梅)

住所:熊本市中央区水前寺公園8-1

問い合わせ先:096-381-8008

営業:9時~17時

料金:お抹茶・菓子付き(椅子席600円、座敷席700円)

ホームページ: https://kobai.jp/kokin/



(構成・取材・文・撮影/大平誉子) ※写真の一部は借用しています

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