未来を担う子どもたちの豊かな感性や創造力を育み、熊本地震からの復興を応援したいとの思いを込め、世界的建築家の安藤忠雄氏から熊本の子どもたちに贈られた図書館「こども本の森 熊本」。2025年4月、オープンから1年を迎えます。子どもたちはもちろん、大人も夢中になってしまう図書館の魅力を、さまざまな角度から紹介します。

建築家・安藤忠雄氏の技術と遊び心が随所に光る「こども本の森 熊本」

熊本県産のヒノキを使った天井から、自然光が優しく降り注ぎます
熊本県産のヒノキを使った天井から、自然光が優しく降り注ぎます

2024年4月にオープンした「こども本の森 熊本」は、日本を代表する建築家・安藤忠雄氏から熊本県に寄贈されたこども図書館です。同館オープン以前の2020(令和2)年7月に大阪市、2021(令和3)年7月に岩手県遠野市、2022(令和4)年3月に兵庫県神戸市に、安藤氏からこども図書館が寄贈されており、熊本は全国4番目の設置となりました。

「こども本の森 熊本」の寄贈にあたっては、安藤氏の「未来を担う子どもたちの豊かな感性や創造力を育むため、更には熊本地震からの復興を応援したい」との思いが込められています。本との出会いを通して、「常識にとらわれない広い視野で物事を考え、勇気を持って行動する力。一人でも多くの子どもたちにその感動を味わってもらいたい。そして熊本から元気に、明日の世界へと飛び立ってほしい」というメッセージも寄せられています。

図書館の中に入りまず驚くのが、館内に漂う何とも心地よいヒノキの香りです。心安らぐ香りに誘われて奥に進んでいくと吹き抜けの階段があり、階段に沿うように約1万冊の本が並べられています。「光」と「緑」「曲線」、そして「自由」をコンセプトに建設された同館。安藤建築の神髄ともいえるスケール感と木の曲線の美しさ、そして随所に散りばれられたおもしろい“しかけ”が、図書館を探索してみたい気持ちを掻き立てます。

本棚の空きスペースのベンチで本を読む家族も
本棚の空きスペースのベンチで本を読む家族も

おもしろいしかけの一つが、本棚にぽっかり空いたスペース。穴にすっぽり収まって本を読んでもいいし、寝っ転がって読んでもいいのだそう。自分スタイルで自由に本との時間を楽しめます。

2階には本棚の間に座った子どもの目の高さほどに窓が設けられ、その先に水前寺江津湖公園の自然が見渡せる設計になっています。そして一番の人気スポットとなっているのが、階段下の小さなお子さん向けの絵本スペース。大人には少し狭く感じられますが、子どもにとっては秘密基地のような、何ともワクワクする空間なのです。

秘密基地のような階段下の絵本スペースで時間を過ごす親子
秘密基地のような階段下の絵本スペースで時間を過ごす親子

自然を生かした森の中にたたずむ図書館

「こども本の森 熊本」の魅力の一つが、自然との調和。水前寺江津湖公園に隣接していることもあり、図書スペースから自然と外につながる動線が、見事にデザインされています。天気のいい日は、好きな本を持ってウッドデッキや、2階のテラスで本を読むこともできます。

ウッドデッキの先には、清らかな水が湧き出る湧水池があり、水辺の生き物を図鑑片手に観察する家族も見られるそうです。

夕暮れ時、お気に入りのテラス席で温かな日差しに包まれ本を読む村上亜由(あゆ)さん、紗都(さと)さん(6歳)、洸太さん(7カ月)親子
夕暮れ時、お気に入りのテラス席で温かな日差しに包まれ本を読む村上亜由(あゆ)さん、紗都(さと)さん(6歳)、洸太さん(7カ月)親子

「こども本の森 熊本」の利用方法

館内を案内してくれた熊本県立図書館主任主事の坂口沙采(さあや)さん
館内を案内してくれた熊本県立図書館主任主事の坂口沙采(さあや)さん

「こども本の森 熊本」では、建物の空間を生かしながら、「うごく」「大地」「はじめて」「すきなのなあに」など、10のテーマに分けて本が並べられています。「一般的な図書館では、背表紙を見て本を探すと思いますが、ここではまだ文字が読めない子どもたちでも多くの本の表紙を見て、自分で好きな本を手に取れるよう工夫してあります」と坂口さん。手に届かない高いところにある本も、手が届く一番下の棚に同じ本を準備してあります。

「どれにしようかな・・・」。気になる本を自分で探すのも楽しみの一つ
「どれにしようかな・・・」。気になる本を自分で探すのも楽しみの一つ

いつでも好きな時に利用できる図書館と異なり、1日4回、各回90~100分の入替え制の図書館(大人だけの来館も可能)です。「予約なしの入場枠も設けてありますが、できれば予約して来館されることをお勧めします。平日が狙い目です」(坂口さん)。

くまモンが目印の「みつめる」の部屋では、くまモンへの手紙を書くことができます
くまモンが目印の「みつめる」の部屋では、くまモンへの手紙を書くことができます

季節に合わせたイベントいろいろ

「森のちいさなおはなし会」に聞き入る親子
「森のちいさなおはなし会」に聞き入る親子

同館では、スタッフによる「森のちいさなおはなし会」のほか、季節の行事に合わせたさまざまなイベントが開催されています。取材に訪れた2月下旬には、雛壇に見立てた長い階段でひな人形になれるイベントが催され、何組もの親子が参加。お内裏さま、お雛さまの飾りを付け、写真撮影に笑顔を見せていました。

かわいらしいお内裏さまとお雛さまに扮し記念撮影
かわいらしいお内裏さまとお雛さまに扮し記念撮影

親子で楽しめる心安らぐオアシス

おはなし会の合間で行われた手遊びを楽しむ末松さん親子
おはなし会の合間で行われた手遊びを楽しむ末松さん親子

東京都から帰省中の末松茉里子さんは、母の洋子さん、朝(あさ)さん(3歳)、季々(きき)さん(8カ月)と参加。「秋にも一度来たことがあるのですが、自然に溶け込んだ素敵な図書館で気に入っています。ここに来ると子どもたちも大喜びです」とニッコリ。

あっという間の90分。親子で好きな本を読んだり、イベントに参加したり。おはなし会でおもしろい話に耳を傾けたり、手遊びを楽しんだり。この笑顔を見ると、ここでの時間が親子のコミュニケーションの場となり、心の安らぎを与えるオアシスとなっていることが分かります。

「図書館というと、静かにしなければならない場と思われているかもしれませんが、ここでは、子どもさんが自由に伸び伸びと本を楽しんでいただけるよう、他の方に迷惑にならない程度のおしゃべりは制限しません」と坂口さん。

これまで来館したことのある人は、また違う楽しみを見つけに。まだ訪れたことがない人はぜひ、新たな本との出会いを探しに足を運んでみてはいかがでしょう。

■こども本の森 熊本

住所:熊本市中央区出水2-5-1

電話:096-240-1500

開館時間:9:30〜17:00(予約優先、時間入替え制)

予約:下記HPの予約フォームより

休館日:毎週火曜、館内整理日、蔵書点検期間、年末年始

駐車場:あり

URL: https://kodomohonnomori.kumamoto.jp/


(構成・取材・文・撮影/大平誉子)

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