豊かな気候風土に恵まれた熊本。そんな自然が育んできた海の幸、山の幸の数々…それら豊富な食材にあふれた熊本には、おいしいものが揃っています。
四季折々の熊本の食材にこだわり、その魅力を最大限に生かした熊本らしいイタリア料理を提供するリストランテ・ミヤモト。そのオーナーシェフである宮本けんしんさんは19歳で単身イタリアに渡り、各地の名店で修行することで、それぞれの土地の風土と文化と技術に触れていきました。その中で宮本さんの心に刻まれたのは「レストランには、地域の伝統技術、特徴的な農産物を守る役目がある」という師匠の言葉。そして現在、その思想・精神を故郷・熊本で体現しています。そんな宮本さんに熊本の食材の魅力についてお伺いしました。
店では現在、40〜50軒ぐらいの農家と契約し、9割ぐらいの生鮮食品を熊本のものを使っているそうです。手元にあるものを最大限に生かす料理、その中で宮本さんが見つけたのが熊本市の伝統野菜“ひご野菜”。伝統野菜とは、“種”をずっと受けついで伝統的に作り続けてこられている野菜のこと。そして栽培される土地とも深く関係しています。例えば、ゴボウみたいに細長いニンジン『熊本長にんじん』は、熊本市西区の白川沿いの土地で受け継がれ栽培されていますが、熊本市郊外の他の土地で作ると太くなってしまうそうです。
「“種”の記憶というのは、実は土の記憶なんですね」。そのことの面白さに気づいた宮本さんは伝統野菜を使うことを決めたそう。ただ長かったり細かったり、形が不揃いだったりするので一般的な流通に乗りにくく、また使う方としても敬遠しがちになります。「僕は逆で、こんな長い人参だったら長くスライスしてパスタのような形にする、青ねぎだったら、風味をいかしてスフレにするとか。伝統野菜はデザインとして見た時、非常に個性的で、それが面白いなというのが僕の印象でした。何でこれをみんな生かさないのだろうって。じゃ、僕がやろうって感じで始めたわけです。でもね、最近はいろんな友人たちが使うようになってきて、すごくいいなあって思います」。
全国の政令都市の中でも、熊本市のように十数種類もの伝統野菜を持っているところは他にありません。宮本さんが腕をふるう地元食材を使った料理を求めて、遠方からも多くの人々が熊本まで訪れています。中には野菜だけでフルコースを作ってくれないかと注文するお客さんまでいるそう。「農業ってイコール地域の食文化でもあるわけですよ。その地域の人たちがどうやって食べてきたのか、食の歴史が見えるのが農業。僕らは文化としての農業を守っていく、伝えていく役割があるんじゃないかなと思いますね」。熊本の文化としての農業を守るためにも、宮本さんの努力は続きます。
「実は自分たちの足元に宝物がある。今、自分たちが持っているものを最大限に生かせば、皆さんが食べたいものになるのではないかと思います」。熊本は海あり山ありと自然環境に恵まれているだけでなく、温暖な地域、寒冷地とさまざまで、日本の気候・生態系の縮図、だから個性的な食材も豊富だと宮本さんは語ります。その土地の気候、風土、代々の土作り、そしておいしい水、それらが揃った熊本だからこそ、おいしい野菜が取れるのです。「熊本の気候と先人の知恵、努力があって、その結晶が今の熊本市の豊かな野菜とか食文化というか農文化につながっていると思います」。
恵まれた自然環境と長い歴史の中で培われてきた人の知恵と技術が育んできた熊本の食文化。熊本の食材を最大限に生かし、伝統的なものから革新的なものまで、さまざまな形で料理が熊本にはあふれています。その魅力を舌と目で確かめてください。
5歳の時、父親が熊本で最初の本格的なイタリア料理店を開店。19歳でイタリアに渡る。イタリアの名店「ラ・テンダ・ロッサ」、「ラ・シリオラ」「ヴィッラ・ロンカッリ」などで修行し、27歳で帰国。その後、31歳で「リストランテ・ミヤモト」開店。(2021年に移転し「antica locanda MIYAMOTO」を開店)。2011年、農水省料理人顕彰制度「料理マスターズ」最年少受賞。2014、熊本県知事より「世界農業遺産・阿蘇」認定に尽力したとして、感謝状を授与される。2015年10月、イタリアミラノで開催されたミラノ国際博覧会にて、熊本県と阿蘇をPRする料理のデモンストレーションを行った。その他、テレビ出演を始め、各種メディアなどを通じて熊本の農文化や食材を発信し、また全国各地から招聘され、講演活動や食事会も行っている。
熊本市では、熊本で古くから栽培されてきたものや、食文化にかかわるもの、地名や歴史に因むものなど、15品目を「ひご野菜」として指定しています。