熊本市の中心街・上通りアーケードから少し国道側に歩くと見える、1軒のお店。所狭しと洋服が並ぶ店内でにこやかに迎えてくれたのが、古着ショップ「DOLPHIN(ドルフィン)」のオーナー、本田浩二さんだ。このショップに入ってもうすぐ20年。熊本の街に嵐のような巻き起こった古着文化を見守ってきた一人なのだ。本田さんが古着好きになるきっかけは、中学生の頃にアメリカ文化に熱中したことだった。アメリカの映画「アウトサイダー」や「アメリカン・グラフィティ」などに影響されて洋服、古着、音楽、乗り物(アメ車)に興味が沸くように。「10~20代の頃は武蔵ヶ丘にあった『ギャラリーズ』や『ヤンクス』、『バティック』それに飛田バイパスにあった『ライダース』などが、その頃の僕らの聖地。古着やカフェがあって、バイカーや車乗りが集まる、本当にカッコイイ空間だった」。そこにいたカッコイイ大人達を見て、本田さんも古着にのめり込み始める。20代になった本田さんは、古着のツナギを着て、ロン毛にインディアンジュエリーをジャラつかせ、アメ車に乗って…。アメリカの服と音楽と車、そんなスタイルを自由に着こなす大人の仲間入りをしていった。本田さんが古着店に入るきっかけになったのは、23~24歳のころ。知人の紹介で、古着店の立ち上げを手伝うことになったのだ。「当時は違う職に就いていたのですが、『古着店に勤めたら仕入れでアメリカに行ける!』という単純な思いで、二つ返事でOKしました(笑)」。そうして勤め始めたのが、「DOLPHIN(ドルフィン)」の前身となるお店「サロン」だった。
ショップを立ち上げた時は90年代。熊本は古着ブームに沸き、街の至る所にいろんな古着ショップが並んでいる時代だった。「熊本は古着の街として独自のムードを作っていました。個性的でアクの強いショップも多く、東京・大阪など県外からも古着目当てに訪れる人も多かったほど。お客さんも古着にアツく、仕入れ先から商品が入荷した日には、お店の外に開店前から行列ができていました」。もちろん、そんな時代だからこそ“良い古着”は取り合いに。当時は月1回はアメリカに仕入れに行き、フリマや倉庫を巡っては、何千枚、何万枚もある古着から“お宝”探しをしていた。時には、一般客が出店しているフリマ会場の片隅からとんでもないヴィンテージが見つかることもあり、その「たった1枚」を掘り出すために、いかに目を肥やし、粘り強く探すかが勝負だった。「日本から買い付けに着ているライバル業者も多く、取り合いになったり交渉しあったり、ゲットした商品を盗まれたりしたことも…。常に戦いでした」。そんなアメリカでのハードな経験、そして何よりアメリカンスタイルの本場で感じた文化が、本田さんの古着への想いをより強めていった。もちろん、ヴィンテージアイテムなどの知識も膨大で、お店で同じ古着好きのお客さんが集まり、おしゃべりするのも楽しかった。「毎日のように店に来ては、お金はないけどたくさん試着して古着談義に花を咲かせるような、小生意気で(笑)かわいい高校生もたくさんいました」。前の社長から店を引き継ぎ、オーナーとなってから、ますます古着漬けの生活を送りながら、熊本の若者の古着シーンを下支えする存在になっていった。
90年代~2000年代前半の熊本の古着ブームを振り返る本田さん。「当時は熊本のショップ同士も良いライバルで、店員達もみな自分たちが着る古着のコーディネートの個性を戦わせ、熊本のファッションシーンを牽引していた。『他人よりカッコよく、他人とは違うオシャレを』そんな気質に溢れていた時代です。彼らをお手本にお客さんもコーディネートを楽しみ、熊本独自の文化を創っていたように思います」。一時期の古着ブームは過ぎ去り、古着店も当時よりは減ってしまったが、今も残る「DOLPHIN」のような古参のお店が、熊本の新たなファッション文化を見守り続けている。「ファストファッションが流行して『洋服』自体の価値が軽くなる時代が来ました。しかし今はそこも通り過ぎて、ファッションの選択肢が多様化した時代にあると思う」と本田さん。そんな中で、熊本で古着ブーム再燃の気配を感じているという。「若い頃に古着を楽しんでいた30~40代の人で、ファッションを一通り巡って戻ってきた人もいます。古着とはそのモノ以上の付加価値を感じられるアイテム。『良いものを長く着る』、そして『価値のあるものを選ぶ』、大人になって、そんな楽しみを新たに感じてもらっているのかもしれません。一方で「DOLPHIN」には、若い頃の本田さんのように熱烈にお店に通い、「ここでバイトしたい!」と惚れ込む高校生もいるそうで、とても嬉しく感じているという。「最近の若い人たちは試着して服を選ぶことを面倒に感じたり、無難に周りと差がつかないファッションで落ち着こうとする人も多いように感じます。でも、『人よりもカッコよく』という気概は、熊本人のDNAに潜んでいるもの。その気質を呼び覚まし、ファッションの街・熊本が新たな個性を作り出せるよう、私もそのお手本になる『かっこいい大人』でい続けたいですね」。これからも古着店の片隅から、温かく熊本のファッション文化を見守り続けてくれるはずだ。
古着は自分なりのスタイルで楽しめるものですが、スウェットの袖やリブをカットオフしたり、パーカーのフードをカットしたりするカスタマイズ。しかも計ったりしないで適当に切るのがオススメ。あとは、リメイクなど工夫して着る楽しみも古着にはあります。
「服が似合うかどうかや、ユーズド感のなじみ具合は着てみないと分からないので、買う買わないは気にせず、ガンガン試着して欲しい」と本田さん。
アメリカ中部付近で通っていた古着屋のオーナーが秘蔵の倉庫を見せてくれたのですが、ヴィンテージのGパンが何百本も揃うようなものすごいコレクションに垂涎でした! どれだけお願いしても何も売ってもらえず、ようやく売ってくれたのが自転車1台でした(笑)。
マイナス20度の極寒の中、凍るハイウェイを8時間運転したり、ハリケーンや洪水があっという間に襲ってきたり…。アメリカの大自然の驚異に、命の危険を感じることもあったそう。
本田 浩二
古着ショップ「DOLPHIN(ドルフィン)」(熊本市中央区草葉町2-25 TEL 096-353-3305)オーナー。45歳。個人的には、古着アイテムの中でも特にミリタリー系が大好き。
調査まとめ
何よりも、ヴィンテージものに関する知識の豊富さに驚かされた。一方で遊びも大好きで、あまりにも海が好きなため春先からは短パンで過ごし、短パンに似合うよう肌も焼いて全身でコーディネートしているそう。服選びイコール自分が楽しみたいライフスタイル選び、そんな古着の楽しみ方の秘訣を、彼の姿から教えられた。